こんにちは、セカチャレを運営する株式会社インフィニティライフの高木です。
やり取りにおいて「希望条件を受け入れているのに、なぜか話が進まない」 「面談の後、急に売手さまの反応が悪くなった」ということが稀に起きます。
M&Aの現場では、時として「条件(売買金額等)」を超えた「感情」が成約の成否を決定づけることがあります。特に、生徒や保護者、講師との深い信頼関係で成り立っている学習塾業界において、この傾向はより強いと言えるかもしれません。
5年以上の支援の中で、私は「少し条件は劣るけれど、信頼できるこの人に譲りたい」と売手さまが即決する瞬間を何度か目撃してきました。
なぜ、ある候補者は一瞬で心を掴み、ある候補者は選ばれないのか。売手さまの本音と、選ばれるためのマインドセットを考えてみます。
目次
ビジネスとしてのM&Aであれば、1円でも高く売れる相手を選ぶのが合理的です。実際に、そのようにして話がまとまったことがほとんどであるかもしれません。
しかし、学習塾の経営者には「想いを承継する」ことを大事にしている人も多くいます。売手さまにとって、譲渡は「肩の荷を下ろす」と同時に、「大切な場所を他人に託す」という決断です。そのため、条件に大きな開きがない限り、最終的には「この人なら、生徒や先生たちを裏切らないだろう」という信頼の部分が優先されることもあるのです。
金銭的な条件交渉の前に、まずは売手さまとの信頼関係が構築できるかが、成約につながるかどうかを分ける要素となります。
最初の顔合わせ(トップ面談)で、売手さまが「この人なら良いな」と感じてくださる買手さまには、共通する特徴がいくつかあると感じます。
「問い」の方向性と量:収支や事務的な話だけでなく、「なぜこの地域で始めたのか?」「先生方はどんな想いで指導されているのか?」といった、売手さまの「想い」にフォーカスした質問を投げかける方は、とても受け入れられやすいと感じます。
徹底した「リスペクト」:上記と関連しますが、その地域で培ってきた歴史に対し、心からの敬意を払っていることが言葉の端々に表れます。第三者である私から見て「その言い方や反応はないだろう…」という方も稀にいます。
謙虚さと柔和な物腰:「検討してあげる」という傲慢さは微塵もなく、あくまで「自分を選んでくれるとしたら」というスタンスで、謙虚な姿勢を崩しません。
コミュニケーションの「しやすさ」: 相手の話を遮らず、まずは受け止める。特に経営者の方は、自分の話をすることが好きな人が多いです。この「話しやすさ」が、良い印象を抱かせる要素になると感じます。
一方で、どんなに立派なキャリアや資金力があったとしても、以下のような振る舞いをする方は、その後お話が進むことはほとんどないと言って良いかもしれません。
(そもそも、このような対応をされる方はあまりいませんが…)
新オーナーとして「変えたい部分」があるのは当然です。現在の運営における課題がはっきりとわかることもあるでしょう。しかし、それを伝えるには順序があると感じます。
・受容:まずは現状の指導方針や文化を100%リスペクトし、受け入れる。
・自己開示:その上で、自分自身の教育観や人生観を誠実に話す。何が正しい、何が間違っているではなく、スタンスの違いであるということを念頭においた方が良さそうです。
・明確化:「これまでの伝統として残すべきもの」と「時代の変化に合わせてアップデートしていくもの」を整理し、意向として伝えます。
このステップを踏むことで、売手さまは「自分の築いたものが否定されている」という不安から解放され、「想いを継ぎながらも、進化させてくれるお相手」だと認識してくれます。
実際のところ、譲渡してからの経営や運営に対して、売手さまが口出しをすることはできません。しかしながら、自身の運営してきた塾がどうなっていくのか…ということはどうしても気になってしまいます。そのイメージがつくことで、安心することができるようです。
売手さまにとって、講師の扱いがどうなるのか、彼らの雇用をどう守るかは最大の関心事です。中には、自身の教え子が講師になってくれてるというケースも多くあり、長年の付き合いがあればあるほど、その関心は大きくなります。
ここで買手側ができる最も誠実な配慮は、「売主・買主の共同面談」です。 売却が決まった際、売主さまから直接「この人は私が信頼して選んだ、素晴らしい方です」と紹介してもらう。この「お墨付き」の手続きを経て、従業員も安心することができ、また、買手側としても責任感が生まれるのではないでしょうか。
つまるところ、今まで紹介してきたことを自然にできてしまう方が、「この人を紹介したい!」と思える方なのだと感じます。
・売手さまの過去を尊重しながら、そこに自身の経験を掛け合わせて事業を発展させる具体的なイメージが描けている。
・何より、「この塾を、もっと地域に愛される場所にしたい」という熱意が、損得勘定を超えて伝わってくる。
そのような方は、仲介者である私も、全力で交渉をバックアップしたくなります。
現在の経営に課題を抱えている売手さまは、誰よりもその痛みを自覚されています。そこに、急に外から来た人間が正論を突きつけても、心は動きません。
M&Aはビジネスにおける選択肢であり、数字を交えた交渉というイメージが強いかもしれませんが、その根底にあるのは「人と人とのコミュニケーション」だと考えています。相手の人生に敬意を払い、共に歩む姿勢を見せる。それこそが、条件の積増しよりも価値のある「交渉術」だと感じます。
この記事の著者

取締役 M&Aアドバイザー 高木直人
埼玉大学教育学部卒業後、大手教育系企業、私立中高一貫校講師を経て、株式会社インフィニティライフに参画。学習塾事業、学習塾M&A事業の責任者として、100件以上の学習塾案件を支援、40件程度を成約に導いた。2023年に株式会社バトンズが選ぶベストアドバイザー賞にノミネート。
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