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第9回:学習塾のM&Aの増加とその背景

2026年5月15日
学習塾売却

ここ数年で塾オーナー様から「塾を売却することに関するご相談」というお問合せが増えてまいりました。

以前であれば、「塾を売却するか、閉塾するか」「経営不振による閉塾を避けるための売却」といったネガティブなお問合せが少なくありませんでした。


しかし、現在は全く状況が異なります。業績が好調で、地域からの信頼も厚い塾こそ、あえて大手グループや異業種と手を組む。そんな「前向きな出口戦略」を選択するオーナー様が増加しているのです。

今回は、アドバイザーの吉田がなぜ今、塾経営にM&Aという選択肢が増加しているか。その背景にある業界の変化についてお話しします。



1. 「個人の情熱」を阻む、3つの時代の荒波



かつて学習塾は、一人の講師の情熱と指導力があれば、最高の指導を提供することが一番の宣伝と地域No.1塾になれる時代がありました。

しかし今、多くのオーナー様が「指導以外の課題」に忙殺されています。


① 集客手段の多様化と投資コスト



口コミ、新聞折込、ポスティング、校門前配布、SNS……と、現代の集客方法は非常に多岐に渡る上に、どこからの問合なのか、流入経路も判別しがたくなっています。

それこそ多くの塾が長年最も強い集客方法として強化してきた口コミすらも、人によっては知人の口コミよりもネットの口コミを優先的に判断材料にし始めている時代です。

今の塾運営には、指導力と同等かそれ以上に「現代集客への理解と投資」が求められます。

これらを1から学び個人や小規模経営で、常に最新の状態にアップデートし続けるのは、資金的にも時間的にも大きな負担となっています。



② 深刻化する「講師の採用難」



少子高齢化の影響は、生徒数だけでなく「講師の確保」にも直撃しています。

特に地方や住宅街の個人塾にとって、安定して学生講師を確保することは至難の業です。

以前ほど大学生講師はアルバイトに比重をおかず、自身の学びに注力するように変化しているため、一人当たりの可能業務量、教育への熱量も減ってきているというお話もよく聞きます。


教育産業としては学生が勉学、自分磨きに勤しむことは喜ばしいことですが、学生講師が主力の塾にとっては、その熱量と労働力の減少は非常に悩ましい事態となっています。



講師の欠員はオーナー様その身で埋め、体力気力ともに多くのリソースを割かざるを得ない状況です。

これは多くのオーナー様が共通して抱える孤独な悩みです。



③ 複雑化するコンプライアンス



働き方改革に伴う労務管理の厳格化や、個人情報の取り扱いなど、塾経営に求められる事務作業は年々複雑になっています。

社会保険の適用講師はどの範囲なのか、その管理はできているか。

労働条件は文書で合意になっているか、入会申込書はどうか。


子どもたちと向き合う時間よりも、書類と向き合う時間が増えてしまったという悩みを聞いたこともあります。



2. M&Aは生徒と地域を守るための攻めの決断


私がご相談を受けるオーナー様の多くは、非常に強い使命感を持っています。

「自分が引退したら、この子たちはどこへ行けばいいのか」「この地域から学びの場を失わせていいのか」という葛藤です。


後継者がいない中での閉塾は、地域から教育インフラを奪うことを意味します。

一方で、M&Aによって信頼できる買い手にバトンを渡すことは、「塾を存続させ、生徒の居場所を守る」という、最も誠実な経営判断になり得ます。



大手や成長企業の傘下に入ることで、資本力や採用力を手に入れたり、異業種からの技術流入であなたが大切に育てた塾が「より強固な組織」として生まれ変わる。

M&Aは、オーナー様個人の利益だけでなく、社会的責任を果たすための強化戦略とも言えます。


昨今ではこれまで以上に公教育引退者の塾講師化も増えてきており、優秀な方ほど大手塾でのマニュアルに則った指導よりも個人塾で自身の経験を大きく反映した教育現場を求めています。

こういった優秀な人材を活かす現場を維持するのも大きな社会貢献と言えます。

塾という場は重要な教育の場であり、年齢大小が貢献度に直結しない貴重な労働の場であり、なにより子供たちにとっての家庭・学校に続く第3の居場所です。

非常に重要な社会インフラでもあるのです。



3. 経営者の役割をシフトする、という選択


M&Aの視点でスムーズに交渉が進行するケースがあります。

M&A後もオーナー様が現場に残り、講師として専念する道を選ぶケースです。


資金繰り、採用、宣伝、労務といった経営部分を買い手に預け、自分は一番の得意分野であり、一番やりたかった生徒と向き合い、教える、指導者に戻る。

あるいは、培ったノウハウを活かして新校舎の立ち上げアドバイザーのような顧問に就任する。


こうした「役割のシフト」は、経営者に心身の余裕をもたらし、結果として生徒たちにより質の高い教育を提供することに繋がります。M&Aは引退の代名詞ではなく、教育者としての人生をより輝かせるためのリスタートでもあるのです。



4. 「個人保証」という重圧からの解放と資産の流動化


教育者としての使命感とは別に、経営者として避けては通れないのが「金銭的なリスク」です。多くの塾オーナー様は、教室の賃貸契約や金融機関からの借り入れに対して、個人保証を負っています。


  • 個人保証の解消
  • M&Aが成立し、買い手が債務や契約を引き継ぐことで、オーナー様が長年背負ってきた連帯保証から解放されます。
  • 「もし自分に万が一のことがあったら、家族に借金が残るのではないか」という心理的重圧から解き放たれるメリットは非常に大きいはずです。


  • 退職金代わりのキャッシュ
  • 塾の資産価値が正当に評価され、譲渡対価として手元に残る資金は、オーナー様にとっての「創業者利得」であり、実質的な退職金となります。


  • 資産の組み換え:
  • 塾という「動かせない資産」を「現預金」という流動性の高い資産に変えることで、老後の備えや、新しい事業への投資、あるいは家族への相続準備を円滑に進めることが可能になります。


「教育」という聖職を担いながらも、一人の人間として、そして家族を守る世帯主として、将来の不安をゼロにする。

この「経営者としての出口」を綺麗に整えることも、M&Aが増加している大きな理由の一つです。



5. 次は「あなたの物語」をどう繋ぐか



学習塾にとって、M&Aは決して敗北ではありません。むしろ、激変する時代の中で、生徒、スタッフ、そしてオーナー様自身の人生を最大化するための、極めて合理的で前向きな選択肢です。



「まだ先のこと」と考えているうちに、地域の環境や自身の体力は変化していきます。

大切なのは、選択肢が豊富にある「元気なうち」に、一度客観的な視点で塾の未来をシミュレーションしておくことです。



あなたが大切に育ててきた「地域の灯」が、次のステージでどう輝けるのか。その可能性を、私と一緒に探ってみませんか。仲介者としてではなく、同じ教育業界に携わるパートナーとして、オーナー様に寄り添わせていただきます。



この記事の著者

M&Aアドバイザー 吉田諭


首都大学東京都市教養学部機械工コース(東京都立大学 システムデザイン学部 機械システム工学科)卒業後、大手教育系企業、建材メーカーを経て、株式会社インフィニティライフに参画。学習塾M&A事業のアドバイザーとして、80件以上の学習塾案件を支援、30件程度を成約に導いた。


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