03-6258-5203

塾売却の手残りを最大化する M&Aの税金対策と代金受け取り時のチェックポイント

2026年6月26日
学習塾売却



M&Aの交渉がまとまり、DDも無事に通過すると、いよいよ最終契約の締結へと進みます。

この段階でオーナー様が最も関心を持たれるのは、やはり「最終的な譲渡代金がいくらになるか」という点でしょう。


しかし、ここで本当に大切なのは、表面上の売却価格そのものだけではありません。

その売却価格から国に納める税金や諸経費を差し引いた後、最終的にオーナー様個人の手元にいくらの現金が残るかという手残りです。


M&Aの手法や契約書の文言一つで、税金の額や代金を受け取るタイミング、あるいは直前での想定外の調整リスクは大きく変わります。

今回はアドバイザーの吉田が、塾売却における税金対策の基本と、代金受け取り時に後悔しないための7つのチェックポイントについて詳しく解説します。



株式譲渡と事業譲渡でここまで違う「税金の種類と税率」



これまでも譲渡スキームの違いに触れましたが、税金の面においてこの2つのスキームは全く異なる性質を持っています。

これを知らずに交渉を進めると、最終的な手残りが目減りしてしまう可能性があります。



  • 株式譲渡の場合
  • 塾を法人化しており、その会社の株式を売却して創業者利益を得るケースです。
  • この場合、個人の「譲渡所得」扱いとなり、金額の大小にかかわらず税率は一律で約20.315%(所得税・住民税・復興特別所得税)に抑えられます。
  • どれだけ大きな売却益が出ても一律の分離課税であるため、手残りを最も大きくしやすい、M&Aにおいて王道のスキームです。


  • 事業譲渡の場合
  • 法人の中の一部の校舎だけを切り離して売却する場合や、個人事業主として塾を運営されているケースです。
  • 法人の場合は会社に売却益が入るため、約30〜34%の「法人税等」が課されます。
  • 個人事業主の場合は総合課税対象として他の所得と合算されるため、売却額が大きくなると最高税率が適用され、最大55%の累進課税の対象になるリスクがあります。


個人経営の塾を譲渡する場合、そのまま事業譲渡するよりも、一度法人化してから株式譲渡した方が全体の税負担を劇的に抑えられるケースもあるため、初期の構造設計が極めて重要になります。



役員退職金を組み合わせた「合法的な節税スキーム」の活用



もし塾が法人であり、株式譲渡を選択できる環境にあるならば、売却代金の全額を「株の譲渡対価」として受け取るよりも、一部を「役員退職金」として会社から受け取る形にした方が、手残りがさらに増えるケースがあります。



日本の税制において、退職金は長年の勤続を労う意味合いが強いため、他の所得に比べて極めて優遇されているのが特徴です。



  • 「勤続年数×〇〇万円」という高額な退職所得控除が認められている

  • 控除を差し引いた後の金額を、さらに「2分の1(半分)」にした上で課税される

  • 他の所得とは合算されない「分離課税」であるため、税率が上がりにくい


例えば、全体の価値としての売却総額が同じ5,000万円であったとしても、すべてを株式の売却代金にするのではなく、買い手企業と合意の上で「2,000万円は前オーナーへの役員退職金として塾の口座から支払い、残り3,000万円を株式譲渡対価とする」といった内訳を契約書に明記しておくことで、最終的な手残りを節税により増やすことが可能になります。


代金一括払いか「アーンアウト(条件付き分割払い)」かの見極め



中小規模の塾M&Aにおいて、売却代金は「決済日に一括で指定口座に振り込まれる」のが原則ですが、買い手企業からアーンアウトという条件を提示されることがあります。


アーンアウトとは、売却代金の総額5,000万円のうち1,500万円などをあらかじめプールしておき、「譲渡後1年間の生徒数が〇名以上を維持できたら支払う」「次の春期講習の売上が目標を達成したら追加で支払う」というように、譲渡後の業績に連動して後から分割支給する仕組みです。


個人や中小の買い手トップが自らの買収リスクを抑えるために提案してくることがありますが、売り手オーナー様にとっては以下のリスクがあります。


  • 譲渡後は新オーナーの方針や新しい講師の指導で運営されるため、自分自身の努力で目標をコントロールできない


  • 新オーナーの集客ミスや、急な教室長交代による現場の混乱で生徒数が減った場合、本来もらえるはずだった代金が消滅してしまう


もちろん、残金分の支払いだけでなく、より良い状態で譲渡を受けたので譲渡額を上乗せしてのお支払いとする場合もございます。

一概に買い手を有利にするためにアーンアウトを設定するばかりではございません。


売り手買い手ともに納得できる条件としてご提案されるケースもあります。



運転資金の「現金(キャッシュ)」をどこまで会社に残すか



最終交渉の段階で、買い手と激しい議論になりやすいのが「引き渡し当日に、塾の口座に現金をいくら残しておくべきか」という実務的な問題です。


塾の運営には、日々の経費支払いや、講師への直近の給与支給、家賃の引き落としなどのための「運転資金」が必要です。


  • 買い手側の主張
  • 引き継いだ明日からすぐに支払いが始まるのだから、少なくとも月間の運営経費2ヶ月分(数百万円)は口座に残したまま引き渡してほしい。


  • 売り手側の主張
  • これまで自分が必死に貯めてきた会社の現金なのだから、売却前に役員報酬や配当で全て引き出したい。


この調整を曖昧にしたまま最終契約を結ぶと、引き渡し当日に「残高が足りない」「想定より現金が抜かれている」と大きなトラブルに発展します。


一般的には「譲渡直近の月謝収入の取り扱い」や「必要最低限の運転資金額」を日割り等で計算し、契約書上で明確に「〇〇万円を残す」と定義しておくことが多いです。


弊社では最終契約段階での交渉だけでなく、募集段階でどのような資産状況で譲渡するかをアドバイザーと相談し、その上で募集を開始することがほとんどです。



塾業界特有の「前受金(年間教材費・講習費)」の清算ルール



学習塾の財務において、一般的な会社と異なる最大のポイントが「前受金」の存在です。特に「年間教材費」や「春期・夏期・冬期講習費」を数ヶ月前に一括で保護者から徴収している場合、個別指導でままある通常月謝・季節講習の未消化指導分の取り扱いについて、M&Aのタイミングによってはそのお金の清算を巡ってトラブルが発生することがあります。


例えば、1月に年間教材費として生徒から集めたお金がある状態で、3月にM&Aが成立した場合、その教材を使って実際に指導を行う=サービスを提供するのは、3月以降の新オーナー体制です。


買い手からは、「売上だけ前オーナーが受け取って、その後の指導のコスト(講師への給与や教材の配送実務)を新オーナーが負担するのは不公平だ。未経過分の前受金は売却価格から差し引くか、口座に残していってほしい」と要求されます。


これが事業譲渡の場合ではより問題となりやすく、債務を引き継がないことから、新オーナーが履行する義務のない債務なので意識から外れることがあります。


債務を引継ぐ必要がなかったとしても、顧客には関係なく、払った金額分のサービスを求められます。

こういった事態にならないよう、譲渡日までに振替指導分の返金か消化しきるための案内を顧客に行うことや、残る未指導分の売上を精算いたします。


この前受金の清算ルールをあらかじめアドバイザーと整理し、契約書に落とし込んでおかないと、クロージング直前で譲渡額への反映という形で解決することになりかねません。



譲渡当日の着金確認の確実な実行ステップ



最終契約書に判を押し、いよいよ引き渡し当日を迎えた際のお金の動きにも細心の注意が必要です。


M&Aの手続きにおいて、お金が振り込まれるタイミングと、塾の経営権(株式や印鑑など)を引き渡すタイミングは、手続きの行き違いを防ぐためにも同時履行で行われなければなりません。


実務上は、売り手と買い手、解釈の齟齬を防ぐため、以下のステップを厳格に踏むのが一般的です。


  1. 買い手が金融機関から融資を実行させ、または自己資金から売り手の指定口座へ送金手続きを行う。

  1. 売り手は自身のスマホバンキングや銀行の窓口で、実際に「着金(口座残高の反映)」を確認する。

  1. 着金が確認できたその瞬間に、初めて法人の実印や通帳、株主名簿などの重要書類を買い手へ手渡す。


「手続きの関係上、明日必ず振り込まれるので、先に印鑑だけ預からせてください」といった口約束をそのまま受け入れてしまうと、万が一システムエラーや融資実行の遅延が起きた際に、経営権の所在が曖昧になる実務上のトラブルに発展します。「着金確認が先、引き渡しが後」という鉄則を徹底することが、円滑なバトンタッチを終えるための最後の防衛策です。



最後の1マイルで勝負が決まるからこそ、専門家との連携を



塾M&Aの成約は、マラソンで言えば競技場に入った「最後の1マイル」です。どれだけ良い買い手を見つけ、生徒や講師の未来を守る約束を取り付け、買収監査を乗り越えても、最後の契約書に書かれる「お金の条件」と「税務の処理」を間違えてしまえば、創業者としての引退資金に大きな影響がでてしまいます。



税金の計算や最適なスキームの構築、そして前受金や運転資金の細かな調整には、M&Aの実務に精通したアドバイザーや税理士の視点が不可欠です。


「うちの塾の場合、今の体制で売ると税金はどれくらいかかる?」

「 暗に買い手から前受金の減額を要求されたけれど、どう交渉すればいい?」


そのような具体的なお金の疑問についても、私たちが提携する専門家チームと共に、あなたにとって最も有利でクリーンな着地点をご提示いたします。人生をかけたバトンタッチの成果を1円も無駄にしないために、ぜひ最後まで妥協のない防衛策を立てていきましょう。



この記事の著者

M&Aアドバイザー 吉田諭


首都大学東京都市教養学部機械工コース(東京都立大学 システムデザイン学部 機械システム工学科)卒業後、大手教育系企業、建材メーカーを経て、株式会社インフィニティライフに参画。学習塾M&A事業のアドバイザーとして、80件以上の学習塾案件を支援、30件程度を成約に導いた。


・お問い合わせはこちら

https://juku-ma.com/contact/